大前氏指摘の間違い

電脳雑記

すっげーエライ人であるところの大前研一氏がマイナンバーカードの仕組みを批判してまして。私のような木っ端が何を言ったところで何にもならん相手ではありますが、この人が言っていることはいわゆるウソクサコンサルと大して違わんなぁと思ったので、本記事をば。

なにを主張してらっしゃるか

私が気になったのは、2024年4月20日(日)7:15に配信されているヤフーニュースの記事(一応リンクはこちら)です。ヤフーニュースは一定期間が過ぎると消えてしまいますが、元ネタはマネーポストの記事のようですので、そちらへのリンクもはっておきましょうか(こちら)。

とりあえずChatGPTに上記の記事を要約して箇条書きにしてもらいました。曰く、

  • マイナンバーカードの新デザインは、基本的な情報のみの変更であり、世界的なデジタル化の動きと比べると遅れている。
  • マイナンバーカードは国民DBとしての基本的な機能が不足しており、20年以上前の技術に基づいている。
  • 政府のマイナ保険証への移行は安全性や利便性に疑問を投げかけており、生体認証の欠如や情報の英語表示など重要な点が欠落している。
  • マイナンバーカードの普及率は低く、利用者も少ない。国民DBを普及させるには、ポイント還元や健康保険証廃止などの手段ではなく、基本的な使い勝手の良いシステムが必要。
  • デジタル庁はマイナンバーカードの問題に対処せず、古いシステムに接ぎ木するだけであり、現行制度の早急な見直しを主張している。

だそうです。大まかな主張の方向性は私も賛成なんですが…

何が間違っているのか

この人の主張は、抜本的に仕組みを変えて「国民DB」を作れ、というものかと思います。そのこと自体は私も賛成です。まぁ英語表示を入れよとか、インドとかのシステムのほうがイケてるじゃんなんてぇのは、いかにも外国大好きな大前氏の言いそうなことではありますが。

ああいった優れたシステムを見習え、ってのは、言うのは簡単です。だからウソクサコンサルが幅を利かせるわけですなぁ。

私が最も重要で全然考察が足らんな、と思うのは、国民DBを作る上で何がハードルなのかという点に関する考察です。

今までの制度をぶっ壊して作り直せ、ってのは、言うのは簡単です。ですが実際に制度の運用を担う側にとって、それまでの制度との関係を整理し、断絶することなくスムースに移行でき、過去の制度による情報へのアクセスも保つ、ということを抜きにすることはできません。

過去に私が記事にしていることが、ここで再登場することになります。つまり、住民基本台帳と戸籍の仕組みを作り変えねばならない(過去記事はこちら)、ということです。

大前氏が主張する国民DBとは、即ち上記の過去記事で言う住民基本台帳と戸籍の情報を統合し、そこに必要な情報を付加したDBであると考えられます。というかこれらをきちんと整理しないと、今の制度のままで国民DBを作ったりすると、まさに屋上屋を重ねることになりかねません。

大前氏は、こうした現実に存在する事務・制度を一切合切無視して、まず最適なサーバーを選んでゼロベースからシステムの姿を描け、と言いますが、そこでいう「ゼロベース」とはあくまでマイナンバーの仕組みに関すること。住民基本台帳や戸籍といった、そのシステムで管理する対象であるデータの在り方を検討せずに、そんな仕組みの検討は成り立たないと思います。「こんな最新技術があるんだからしょーもない事務はやめてしまえ」と言っているようなもので、これでは現場が混乱することは目に見えてます。

おそらく、この人にマイナンバー関連の仕組みを作るリーダーを任せたら、過去データや既存制度とのすり合わせで滅茶苦茶になることでしょうね。

どうすべきなのか

まず、管理対象とすべきデータの中身を議論すべきだろうと思います。その上で、それらをひっぱってくるためのベースになる制度を紐解き、あらたな「国民DB」を作るために必要な制度設計をせにゃなりません。

ところが住民基本台帳の所管は総務省、戸籍の所管は法務省…その調整が簡単でないことは明らかです。そんなこと議論している間に益々日本は遅れちまう…その危惧もわからなくはありません。

ですがそこの設計は本当にしっかりやっておかないと、それこそ後で修正するほうが大変です。制度もシステムも。走りながらやっていいこととアカンことがあって、この件はアカンことでしょう。途中で変えるには影響が大きすぎます。

そしてこんな大きな話、自治体でそれぞれ整備せよなんて言われても困りますし、それこそ効率悪くて仕方ありません。私の前の記事の主張にあるとおり、DBの整備は国が主導し、自治体には適切なアクセス権を与えればいいんです。地方自治とは何ら矛盾しない整理が可能だと思います。

結局、飲み屋でクダまいてるのと同じ

っつーことで、大前氏のこの記事の主張は、「だから日本はダメなんだ」って言うだけで何ら建設的なことを言わない無責任な主張と考えざるを得ません。飲み会で文句いってるワケしり顔のオッサンと大して違わないと思います。

学者さんとかはいいですよ。でも、実務家はこんな乱暴な主張にのっかって物事を進めるわけにはいかないんです。

根本的な問題は、デジタルが理解できてないとかいうことじゃなくて、制度をきちんと整理しようしないことです。管理を嫌う連中に対して、正面切って管理すべきだと主張できない弱腰の国の姿勢こそが問題です。まぁ信じろと言われてもなぁってのはわからなくもないってところに情けなさ倍増ではありますが。

まぁコレね、現行の法律を大幅にイジらないといけないし、でもそのメリットって滅茶苦茶わかりにくくて、選挙とかのネタにするとまたぞろ「管理するのかしないのか」的な妙な論争に陥りそうな話ですし、そもそも議員さん方が興味持つような話じゃありませんわな。

どっちかっつーと、本当はデジタル庁が音頭とって総務省と法務省を調整し、国会議員の間を根回しして回る…って話だろうと思うんですが、それをやったとて誰の得になるんだ?っつと、少なくともソレを担当すべき人たちの得にはなりにくいことでしょう。

かくして、デジタル時代における日本の一人負け…はどんどん加速していくわけです。ある意味、昔からよくできた仕組みを作ってきたおかげで、とうとうにっちもさっちもならんよーになったっつーことなんですかね。

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