自治体のシステム標準化は大丈夫?

電脳雑記

日本には1,718の市町村(市792、町743、村183)があります。これらが業務のために使うシステムは、それぞれの自治体が個別に導入するため、バラバラです。それを標準化して効率化しましょってのが自治体システムの標準化。国は、2026年3月末、すなわち令和7年度末までにこれに対応せよ、とゆーてます(その資料がこちら)。

メリットあるの?

国によると、自治体はそれぞれで情報システムをオーダーメイドで作っているからバラバラで効率が悪い、と言ってます。だからそれを標準化して効率よくするんだ、だそうで。そのために国は標準化基準というのを作り、その基準にあったシステムを導入なさい、という法律(地方公共団体情報システムの標準化に関する法律;法律本文を見たい方はこちら)を作りました。

まぁ、理念はわかります。似たような仕事をするのにイチイチあっちこっちでオリジナルなシステム入れて金ばっかかかってしょーがねぇなぁ、と思われても仕方ないだろな、ってのは理解できなくはありません。

ですが、これが現場で業務を抱えてる側からみると、バカ言ってんじゃねぇや、となってしまいます。

一番ハラたつのは、自治体にとって別に具体的なメリットなんかありゃしない、ってことですかね。システム構築・運営費が安くなるなんて言ってますが、実際そんな簡単じゃありませんって。

おい、ふざけんな

そもそも、同じ法律に基づいているからといって、同じ仕事のやり方か?というと、これは違うのが普通です。当たり前なんですが自治体は人口規模によって業務量が違いますし、いろんな住民の構成や地域の要因によってニーズも異なります。

それらに合わせて、その地方ごとに効率良いやり方ってのを自ら考え、事務フローを作り、それに合わせたシステムを長年にわたって作ってきたんです。同じ法律の下での仕事とは言っても、同じやり方になるとは限りません。

それを慮ったつもりか、標準仕様なるものを示しつつもシステムを導入するのは自治体自身でござい、ときました。システムを作るのは国ではなく各自治体。

いやいやいや、ちょっと待って。

それぞれの自治体が個別に開発し運用してるから効率が悪かったんじゃないの?

なのに、結局は個別にやれってか。カスタマイズしなけりゃいいって言いつつ、カスタマイズが必要かどうかのFit&Gap分析はそれぞれでやらねばならず、必要ならGapを埋めるためにカスタマイズをせにゃならぬっつーわけで。

結局、バラバラに調達かけて個別に導入し運用せにゃならんわけ。じゃあ何のための標準ですか?って話ですわ。

どーせやるなら、国で法律に基づいたシステムを作っておいて、個別の利用の仕方は自治体さん考えてくださいね、ってやってくれりゃいいけど、費用負担も導入の苦労も押し付けておいて、人材不足に対応ですと?むしろ拍車かけてるじゃねぇかよ。

毎度毎度の机上の空論

結局、国ってのは自治体の現場のこととか無視して、法律の元締めなんだからそれに従うのは当たり前だし従っていれば同じになるのも当たり前、という馬鹿げた思い込みで標準化なるものを論じているだけです。

実際、仕事をするのは人。法律の運用にしたって、人がやるんです。完全に同じになんかなりっこない。

そして長らくそうした事務をやってきた中で、自治体は自治体なりに工夫してます。過去におこった事故・トラブルを解消するための仕組み、何とか効率よくやろうとする仕組みを事務フローに組み込むため、システムの機能を考えて導入してきたんです。これらはまさにカスタマイズそのもの。

言い換えると、事務の中で一番面倒くさくて厄介なことを何とか上手に処理するための工夫が、例外処理でありカスタマイズなんです。ところが国は標準化するにあたり、それを排除せよと言う。自分でシステムを作るわけでもないのに。

そして案の定…

自治体の側からは、期間が短すぎ!とか、金が足りん!とかいった声が上がり始めています(西日本新聞2023年12月22日の記事はこちら)。

システムの移行にしたって、簡単な話じゃありません。

まずシステムの機能を明確化して、導入コストを算出し、必要なら内規だのといった関連するルールを改正しつつ開発費用を予算化、事業年度になったら数カ月かけて入札をやって、契約が成立すればようやくシステム開発開始です。分析と仕様作成から実際の開発着手まで、少なく見積もっても1年から1年半くらいの時間を要することになるんです。

なのに、標準システムとやらは要件が示されるのは計画上は2022年度(令和4年度)半ばの予定。ところがデジタル庁のウェブサイトでデータ要件・連携要件のスケジュールを見ると、なんと標準仕様書検討会が2024年3月末まで開催され、それを全国に意見照会するのが2024年4月あたま、そして4月末日にそれを公開することになっています。

これらを踏まえてシステムの設計をして予算要求事務をやれるとすると最速で2024年度(令和6年度)の半ばに行う、つまり令和7年度当初予算ってことになります。

先述の大雑把なスケジュール感を思い出してみてください。令和7年度当初予算なので当然執行できるのは令和7年度。年度のはじめに入札をやったとして、契約事務に数カ月かかり、開発着手は6月くらいでしょうか。この年度末には移行が完了してないといけないんだから、開発・導入の期間は半年ちょっと、って感じになっちまいます。

そこに各自治体の開発・導入案件が集中するんですよ。ベンダーの人が足りる筈ありませんな。

国ってのは、たいがい現場のことなんか考えていませんし、自分達で決めたスケジュールを破るのは結構平気です。それでも自治体が文句言わないで従ってるのは、文句言うと却って仕事が増えるから。でも今回ばかりは、それじゃすまないレベルになってきてしまってるってわけです。

金も時間も人も足りひんくて、マジでヤベェんだって。

国のエライさんがたには、もうちっと地方の現場の声にきちんと耳を傾けていただきたいもんです。

 

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