今度は北海道で誤送金

電脳雑記

2023年12月18日の北海道新聞に、北海道による誤送金事案の記事が掲載されました。(リンクはこちら;会員限定記事ですので全文読むには会員登録が必要です)

何があったのか?

道内の低所得世帯の一部に1世帯当たり1万2千円を給付するという物価高対策事業(道の案内サイトはこちら;事業は終了しています)で、誤って123世帯に計4156万8千円を過大支給した、ということです。最大で460万8千円を過大に振り込んだそうで。

発表によると、システム不具合が原因。96世帯は返金に同意したが、27世帯と連絡がとれず、意向が確認できていない、とのこと。

北海道庁のwebサイトで「誤送金」で検索してみましたが何もヒットしませんでした。

原因は?

この事業については実施を外部委託(業者募集の公告はこちら;終了しています)しており、その外部委託を受けていた業者が使っていたシステムの不具合だそうです。

どんな不具合かというと…

支給対象者のリストで、市町村コードが同じ人が並んでいると、その並びの最後の人にその分を全額給付するように、給付額を設定してしまったらしく。

ちょいとわかりにくいかな?下の表を見てください。

世帯名市町村コード支給額
世帯A11112,000円
世帯B11112,000円
世帯C11112,000円
世帯D11112,000円
世帯E11112,000円

上の表では、世帯AからEまであって、市町村コードはすべて同じ”111”です。そこでシステムは、111が並んだ一番最後の世帯Eの名称を、他の同じ市町村コードの世帯名に上書きしてしまったらしいです。つまり次の表のようになっちゃったんですな。

世帯名市町村コード支給額
世帯E11112,000円
世帯E11112,000円
世帯E11112,000円
世帯E11112,000円
世帯E11112,000円

これで世帯Eには12,000円×5=60,000円が入ることになります。

どうゆーロジックを組むとこーなるかはわかりませんが、北海道新聞さんの記事からはどうもこういうことらしい、となります。なんかすっげー単純な演算子の書き間違いとか、そんなオチなんじゃないかなぁって思ったり。

そもそも1世帯に1回なんだから、同じ世帯のレコードがいくつもあったらダメですよ、ってチェックロジックが入っていれば良かったっつー話なんですが、そんなチェックするようなシステムじゃなかった、ってことですよね。←さぁ、カスタマイズしますか!ってなことは、また違う議論です。

で、「ロジックが間違っていた」と言えば一言で済んでしまいますが、それをチェックすべき人がチェックしていたか?出力結果のチェックの責任は誰が負うのか?そもそもプログラムの発注仕様書にそんな条件書かれていたか?など、気になることはいくつかありますよね。

これ、作った人は今頃真っ青だろうと思います。もしかすると本人はケロっとしていてその上のリーダーとかマネージャーが真っ青なのかもしれませんが。

どうも、この制度では申請を出した人を審査して給付、という流れになっていたようですが、その給付のリストを作る際に間違えた、ってことになるんでしょう。この事務を役所が直接やっていたとすると、普通の会計事務なら世帯ごとに請求書を受領して支出伺いを立て、請求書の金額と突合して…という手順を踏むことになりますが、すべて外注してたもんだからそんなチェックはしていない、ってことなんじゃないかと推測してます。

これって、効率ばかりおいかけてチェックする手順をやってはいけないところまで簡略化した結果だ、と言えなくもない気がするんですよ。役所ってのは無駄な仕事をする、と言われまくりますが、こういった事例を見ると「間違えないためにやってる何重ものチェックを無駄だなんて言うんじゃねぇや」という声が上がっても不思議じゃありません。

役所としての責任

業者との契約の内容など具体的なことがわからないので、あまり断定的なことは言えませんが、道の事業としてやっているのですから、業者の責任ってことだけで済ませるわけにはいかないですね。道と業者のチェックに関する責任分担の内容次第では、この件で実質的に生じた損害額の全てを業者に負担させることが可能かどうかすらわかりません。

ただ、繰り返しになりますが自治体の会計事務と同じような手続きを踏むはずはなく、チェックに関しても抜き取りによる突合とか、集計だけチェックとか、そういったことで済ませてしまっていたんじゃないだろか?という具合に思えてしまいます。

でもその責任、やっぱり役所も負わないといけないんです。

これって、あたしゃなんだか理不尽な気がします。

再発防止策は?

これでまたぞろ再発防止策は「チェックの徹底」とか言われたら、なんだかなぁなんですが、実際のところそう言わざるを得ないのかな?

徹底するのはいいんですが、何をどう徹底するのか、が大事ですよね。二重チェックとか言われてしまうと、これまた残念。まぁチェックなんてどこまでいっても100%ということはほぼあり得なくて、ミス発生の可能性を減らすだけでしか無いにしても、似たようなチェックを多少目を変えて2回・3回と繰り返すってのは、あまり効率良いやり方とは思えません。

また今回のミスはシステムのミスとされていますが、ようするにプログラムのロジックに誤りがあったことになります。ロジックのミスを見逃し、更に出力結果で不自然であることに気づくべきだったところを気づけなかった、という2重のミスが重なっているんです。

前段のプログラムのロジックのミスに関しては、役所と業者と一緒になってチェックしたの?ってのが問題になりますね。特に役所の側のチェックが甘かったとすると、なぜ甘くなってしまったのか?見逃した原因は何か?こういうロジックのことって、プログラムを読まないとわからん、なんてことになっていたら、それ自体問題です。

わかるように説明してくれって話ですからね。

わからないままOKにしてたならそれ自体がもう問題外だし。

または、そんなチェックを行うような仕組みにそもそもなってなかったのかも。

そして計算結果、送金する内容が正しいかどうかのチェックについては、おそらく役所が普通にやっている会計事務プロセスの中でなら、ある程度発見できた可能性が高いです。絶対ないとはいいませんよ。でも、「普通にやっていたら」がミソ。誤送金問題ではたいがい、「普通にやっていない」からこそミスが起きているんです。一人の担当だけが抱え込んで仕事していた…なんてのがその典型。

ミスはミスです。ただ反省するんじゃなくて、なんで?どうすりゃいいの?ってのを、きちんとツメツメしてほしいですね。役所の皆さんは、システムのことだから…って業者に丸投げすると、時に恐ろしいミスにつながるってことを肝に銘じてほしいです。「正しい」ことを保証するのは、最終的には役所自身ですから。

余談;誤送金を受けた人はどーすべきか

こうした高額な誤送金の問題というと少し前にも大騒ぎになった事案がありましたね。誤送金を受けた人が返金する前にオンラインカジノに送金しちゃった例(大東文化大学によるこの事件の記事はこちら)。当人や当時の関係した役所の人たちにとっては、古傷をえぐられるような思いなんじゃないかしら。

その当人の方が、誤送金を受けた際の対応についてかくあるべし、と仰ってます。曰く「絶対に手を付けずそのままできるだけ早く返金したほうがよろし。」だそうで(該当のyahooの記事はこちら)。

何かしらいい目が見られるんじゃないか、なんて余計な色気を出すと、エッライ目にあいますよって警告してくれています。実体験のある人の言葉というのは、大変な重みがあるなぁと感心しました。

目の前に急に大金が転がり込んだりすると、フラフラっとなりそうな人なんて世の中にナンボでもいらっしゃることと思います。でも少なくともこのような大金は自分のものではないことは明らかであり、何をどうしたところで返さなければならない金であることは明白なのですから、余計なことはせず、むしろ積極的に「お返ししますよ」と申し出てあげるのが一番無難な対応ってことです。

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